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九州各地への制作の旅。前回日本一周旅行の際には行けなかった、五島列島、屋久島などの離島に足を伸ばすことで、明確に海景に的を絞り、より自然奥深い海岸での旅行風景画をまとめたコレクション。

 まだ四月だというのに、この日の暑さは相当なものだった。九州・宮城県のえびの高原に近い川の河川敷を歩き、ふと目の前を眺めると、緑色ばかりだ。暑さで緑色の炎が燃え上がっているような感じがした。■

 長崎の五島列島。この島には四日間くらいいて、毎日行く喫茶店があった。その街では数少ない定食屋でもあった。
 バスに乗ってみると田植え前で、レンゲ畑がきれいだった。バスには行きも帰りもほとんど乗客が乗っておらず、何となく、運転手さんと世間話をした。
 このあたりは普段は静かで平和なところだが、トライアスロンの全国大会が毎年あるという。地元の人達は「じきアイアンマン(レース)があって、ホテルや民宿はイッパイになるよう」と少し自慢するように、嬉しそうに話していた。■

 屋久島の宮之浦川の河口から島全域を見渡してみた。中央部の雲がかかって暗くなったあたりでは、雨が降っているのだろう。
 ヒッチハイクで乗せてくれた、作業着を着た工事関係の恰幅のいい男性が、「屋久島では、鹿一万頭、猿一万匹、ヒト一万人」といたずらっぽく話してくれた。
 島の地形や気候の話、海での作業も多いらしく、「海里」とは何か、ノットとは何か、あるいは島では観光客をどう思っているかなどの雑談で盛り上がった。話し振りが陽気で表現が豊かで知性的でもあり、また素朴で悠然としたところもあった。一時間足らずだったがお互いによく喋ってそれがとても楽しく、また気が合うのが分かった。
 別れる時に握手して、そのすぐ後でじわじわと気づいた。あんな味のある人とはそうは出会えないということに。■

 屋久島の「いなか浜」と呼ばれる美しい海岸。
 テレビドラマの撮影にも使われたんだ、と地元の人は誇らしげだ。しかしそれも分かる。
 眺めていると背後で物音がしたので振り向くと、10メートルくらい先のところに、一頭の鹿がこちらを見ていて、目が合ってしまった。■

 港から砂浜へ、路線バスで行こうとした。昼食で立ち寄った飲食店で、近くのバス停がどこか訊ねたら、店の主人が「ヒッチハイクで行ったら?」と言う。「そんなうまくいくかなあ」「結構停まるよう」と。そこで道に出て、右腕を前に出し親指を立てたら、通過一台目のクルマであっけなく乗せてもらえた。
 地元の会社の事務員をしている女性で、一旦自宅に戻ってお昼ごはんを食べて、再び仕事場に戻るところだった。ヒッチハイカーを乗せることには慣れた感じだが、まるで以前から知り合いだったかのような親しさだった。
 帰りは海岸道路をただ歩いていただけでクルマが停まった。土木作業用機械を操縦する仕事の、作業着のおじさんは大変気さくで、楽しい会話を運転中ずっとしていた。「またどっかで会えるといいな」と握手して、元気よく別れた。■

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